そこそこ面白い話

夜間移動

19時半に最寄駅で友人と合流し、新宿に着いたのは21時より少し前であった。帰宅ラッシュは過ぎているものの、下り電車はほとんど満員であり、混み合う向かいのホームを眺めながら、私たちはスッカラカンの上り電車で並んで座り、今日明日のスケジュールをヒ…

局所的満足感

かねてより愛飲しているモンスターエナジードリンクが、昨今の物価高の影響により、先月ついに1缶205円から230円という30円近い値上げを決行したので、私はコンビニの清涼飲料コーナーで危うく悲鳴を上げかけた。値上げ、それ自体はそれなり話題になっていた…

翼を授ける

ゴキブリは飛行することが出来ない、という話を聞かされ、仮にも羽を持つ昆虫ならば飛ばないはずは無いだろうと思い、調べてみたら、つまり、飛べるには飛べるのだが、一般的には這い回っての移動がほとんどであるという。というのも、ゴキブリは、鳥のよう…

3人寄れば

日本に在住する全員に問う、蚊は、夏の風物詩ではないのですか。蚊について、あまりにも書き過ぎているという自覚はしっかりあるのだが、総じて在るのは嫌悪感だけで、好き好んで論じている訳ではないということを、ここに断言する。嫌なことに出会しても、…

知らない街を歩く

最寄駅から地下鉄を乗り継ぎ、実に30駅近く、1時間しっかり熟睡して、ハッと目覚めると、車窓には全く知らない駅のホームがあった。目的地である。眠っている間に、より地中深くまで潜っていたらしい、地上へ続く階段は滅多にお目にかかれないほど長く、急勾…

天高く、月

秋は天高く、浮かぶはイワシ雲、ウロコ雲、水蒸気質の巨大な魚が、遠くにゆったり横たわり、偶然発見した人は、まるで生まれて初めて空を見上げたように、広大なる天の青さに陶酔する。 無論、実際空の高さは年中同じで、ただ雲が夏より高い位置に発生するか…

ロンドンへ愛を込めて

私の通う小学校には、4年生から参加必須になる放課後活動に、委員会とクラブがあった。どちらも週に1回、4年生から6年生までが同じ教室に集まって、定例会議やクラブ活動に勤しむのである。と言っても、所詮は小学生だから、委員会には特別な責任も課題も無…

いざ、初号機

パソコンの画面が瞬いている。いや、私の不調でそう見えているという話ではなく、事実、画面が点いたり消えたりを繰り返している。朝、ノートパソコンの電源ボタンを押し、パスワードを入力して、デスクトップ画面が映された。ブラウザアプリを起動するため…

セミに謝罪

セミが荒れ狂う時期である。部屋の窓に、1日2回はセミがぶつかる。カーテンを開ける習慣が無いから、外から見ればガラスというより「壁」だろうに、しかし、どういうわけだか毎度ピンポイントで窓に突っ込む。網戸側にぶつかると、絶望的である。網目の繊維…

日記をしたためる

日記をつける習慣がない。特に学生時代は「学習習慣の一つとして」取り入れようとしたり、無理やりさせられたこともあるにはあったが、例えば夏休みに課せられる「一日一行」の日記でさえ、日ごと埋められず、前回書いてから数日放っておいて、ようやくハッ…

庶民コーヒーと庶民菓子

地下鉄の改札を抜けて階段を上り、地上へ出ると、「明治屋」と看板を掲げた石造りのビルにぶち当たった。都心も都心、巨大なオフィスビルが整然と並ぶ、銀座の街である。どのビルも1階は店舗になっているが、その上は全部、どこかしらの会社のオフィスが詰め…

深夜の散歩へ

深夜零時近くになって、急にアイスが食べたいと思った。既にどっぷり梅雨入りしたらしいが、偶然にも雨の降らない夜であった。鍵と財布だけを引っ提げて、夜の街へと繰り出した。 深夜の散歩は数ヶ月ぶりである。若干湿った風が静かに吹いている。前にも後ろ…

アイドル、アリクイ、武道館を目指せ。

ミナミコアリクイである。体長1メートル弱、長い尻尾まで含めると1.5メートルはありそうである。全身をクリーム色のパサついた毛で覆い、背中から肩にかけては黒い毛が模様を作っており、伸び切ったタンクトップを着ているように見える。ずんぐりした体から…

富士山について

驚くなかれ、私は富士山をみたことがない。正確には、関東育ちだから視界の遠くに見切れることくらいはあっただろうが、「富士をみる」という行為を意識してやったことがない。富士の麓に旅行した記憶もなく、また日本一高い山について日常的に思い馳せる習…

喉が渇いたらアイスを食べたい

既に真夏のような暑さである。慌ててクローゼットを衣替えしたり、夏服の下着が無いことに気付いて、買いに出掛けたりもした。室内だろうと少し動けば汗が滲み、外に出れば、ただ歩き回るだけで息が上がる。格好は素肌に半袖1枚のみ。帰り道では欲求に勝てず…

知り合い未満

恒例「街中の書店巡り」の最中、ある大型書店にて、1冊の文庫本を手に取り、熱心に吟味している女性がいた。私が一度通りかかって、奥の書棚をのんびり物色し、一周して帰って来ても、まだ吟味していた。相当好きな作家なのか、あるいは偶然見つけて惹かれた…

卒業式

花粉症である。いや、花粉症でした、と過去形で言えるはずだったのである。 2月が終わり、気温が上がり、ああもうすぐ春ですね、花粉ですねという恒例のやり取りが始まって、しかし私はクシャミも鼻水も全く出ていなかった。アレグラを飲みはじめた親を横目…

トイレを求めて彷徨う

両手をポケットに突っ込み、虚な目でフラフラしているのが常で、よく「何を考えているか分からない」と言われるのだが、大抵はただただ虚空を見つめているだけであって、全然何も考えていない。しかし、ここ数年は不健康極まりなく、頭痛・腹痛の毎日なので…

爆弾処理

最近は、スーパーで叩き売りされているビタミン飲料を好んで飲む。 野菜ジュースの棚に並ぶ、紙パックのものである。200mlのコンビニサイズではなく、牛乳と同じ1ℓサイズで、なんと98円。栄養成分表示によれば、嘘みたいな量のビタミンCが含まれており、さら…

煩悩について

大晦日の夜、紅白歌合戦もそこそこにテレビを消して、パソコンで年間予定を弄ったり、デスクトップに散らかったフォルダを整理したりしていたら、いつの間にか0時を回っていた。 「年明け」は年齢を重ねるに従って新鮮味が無くなり、小学生の頃などは日付が…

12月17日(プッチンプリン)

深夜、台所で洗い物をしていると、シンクの隅にプラスチックの容器が転がっていた。拾い上げてみれば、側面が波打つように変形しており、どうやら「プッチンプリン」の容器らしい。恐らく、父が食べたものだろう。 先日65歳になり、めでたく高齢者の仲間入り…

12月12日(枕草子)

冬はつとめて。雪の降りたるは言うまでもないだろうが、あいにく早朝は夢の中であり、そもそも東京に雪は降らぬ。 霜が降り、雑草を白く装飾する様子は未だ見たことがなく、ざらついたアスファルトを踏み締めることくらいでしか、その存在を確かめる術はない…

11月28日(直筆)

年内の予定をあらかた済ませてしまったので、本来なら行事や仕事納めで忙しくなるべき師走を、完全に持て余している。このままだと空虚と化した「12月の1か月間」はユラユラと宙に浮かび上がり、忙しない世間をぼんやり眺める私の頭上に「膨大な虚無感」とし…

11月23日(図書館)

約2年間の自粛生活を経て、最も変わったことといえば「図書館に行かなくなったこと」である。 以前までは「本は借りるもの」であり、毎週のように図書館へと出向いては、誰も手を付けないような太古のミステリーを書庫から出せと頼みこんだり、同じ作者の文…

ゲーム初心者が「ゲームでのタスク」について考えてみる

私が小学生の頃、2010年前後といえば、ちょうど3DSやWiiなどの任天堂ゲーム機が大流行した年代であり、クラスの友達は全員「ともだちコレクション」で遊んでいた。 私はと言うと、そもそもゲーム機を持っていなかったから「ともコレ」はおろか、「ゲームで遊…

10月12日(吉祥寺)

関東地方東側に住んでいる人間からして、吉祥寺とは正しく「地の果て」である。最短ルートで乗り換えたとしても片道50分強、ただ往復するだけで1500円が消えて行く。 地の果てに何の用があるのか。よっぽどの覚悟が無いと行く気にならないのが正直なところだ…

9月3日(寒い)

木曜日の夜、ブランケットに包まりながら「明日はようやく金曜日か」と眠りについた筈なのだけど、翌朝、起きてスマホを点けてみれば、ロック画面に「土曜日」の文字が光っている。 9月に入り、学生諸君の夏休みも終わっただろうし「金曜日なら混んで無いだ…

8月31日(コンビニの上に住みたい)

SUUMOが発表する「関東版住みたい街ランキング」では4年連続で横浜が1位らしいのだけど、関東圏内とはいえ、20年間あっちこっち出掛けてみた感想として、「何処もかしこも大差ない」というのが正直なところである。 もしかしたら、住まないと分からない良し…

7月24日(一気観)

平日は昼から仕事、夕飯後は自主練習と、健康極まりない生活をしているので、土日くらいは好き勝手にダラダラ過ごしたい。 かと言って家の中でやりたいことも特に無いので、仰向けに寝転がって普段観ないテレビでも点けてみたら、映画チャンネルで『古畑任三…

5月16日(偏頭痛と殺意)

朝から風がゴウゴウと吹き回す音が響いている。 昨日は「本屋に行きたい、あわよくばマックでポテトも食らいたい」と心に決めて寝たので、天気など構わず出掛けるつもりだったのだけど、起き上がった途端、視界がキラキラ輝いている。立派な偏頭痛の前触れで…