深夜の散歩へ

深夜零時近くになって、急にアイスが食べたいと思った。既にどっぷり梅雨入りしたらしいが、偶然にも雨の降らない夜であった。鍵と財布だけを引っ提げて、夜の街へと繰り出した。

 

深夜の散歩は数ヶ月ぶりである。若干湿った風が静かに吹いている。前にも後ろにも、数えるほどしか人が居ない。すれ違う自動車のヘッドライトが道のりと私を照らし、その度に運転手たちから注目されているようで、さり気なく背筋を伸ばした。とっくに営業時間を過ぎたスーパーが、街灯に照らされ、凄みのある雰囲気を醸し出していた。一階建ての決して大きくはない店舗だが、シャッターをがっちり下ろしきり、人気のない闇に黙って浮かび上がる姿は、要塞じみた迫力があった。もし街にゾンビが溢れるような事態になったら、このスーパーに籠城しようと決意した。

少し歩くと、ささやかな商店街に出る。どの店舗も防犯のためか店先の電灯は点いているから、遠目だと営業中かのように見える。近づくと、誰も居ない。当たり前である。客も店員も誰一人として姿無く、しかし煌々と灯りがついたままの店舗が集まって、「千と千尋の神隠し」冒頭の屋台街を彷彿とさせた。

一軒、見慣れない店舗があった。知らない間にオープンしていたらしい。店先には、入り口の扉が埋もれて見えないほど大量の花が並べられており、「豪勢な花屋だ」と感心しかけて、よく見れば単なる開店祝いのスタンド花であった。人望と人脈はあればあるだけ良いと思っていだが、予期せぬ弊害も起こるらしい。お祝いの品を送る際には、予算や相手の好みと共に、敷地面積にも気を使わなければならない。

 

コンビニでいつものヨーグルトアイスを買って、帰った。YouTubeを観ながらアイスを食べ切り、久々の散歩記念に、今日は久しぶりに湯船に浸かってみようと思い立つ。春を過ぎると、どうしてもシャワーだけで済ませてしまう。

ついさっきアイスで冷やした身体を熱湯に浸す。じんわりした多幸感に満たされてゆく。今なら全身どこを輪切りにしても、同じ濃度で幸福が詰まっているだろう。人間は、自分の身体を冷やしたり温めたりして、幸せを探しているのだと知った。

secret.[click].