爆弾処理

最近は、スーパーで叩き売りされているビタミン飲料を好んで飲む。

野菜ジュースの棚に並ぶ、紙パックのものである。200mlのコンビニサイズではなく、牛乳と同じ1ℓサイズで、なんと98円。栄養成分表示によれば、嘘みたいな量のビタミンCが含まれており、さらに「冬だからビタミン20%増量」という意味不明なキャッチコピーまで付いている。ビタミンCって、増やそうと思って増やせる物なのか。

 

中身はレモンイエローのレモネードであり、ごくありふれた味である。口淋しさを紛らわすのに丁度良いし、ついでに大量のビタミンも摂取出来る。コスパの良い商品だが、しかし一点、どうしても気になることがあり、容器が紙パックなのだが、どう考えても一般的な牛乳パックよりも紙が薄い。

 

紙が薄いとどうなるか。

パックの口付近まで なみなみ と注がれたレモンジュースと、口を閉じる際に入り込んだであろう空気のせいで、パック全体がパンパンに膨らんでいるのである。直方体であるはずの紙パックが、明らかに膨張しきっている。全ての辺が曲線である。ぎりぎりの緊張感で、なんとか形を保っている。

 

パンパンなもんだから、掴んだ手に少しでも力を入れれば破裂するという確信がある。

スーパーで、棚からレジまで持っていく間にうっかり落としでもしたら、無論パックは破裂、縛りを無くしたジュースは勢いよく飛び散り、レモンの海が誕生、店舗は人工的なレモンの香りで一杯になるだろう。店舗側の被害や私の精神的ダメージを想像すると、「破裂」というよりもはや「爆発」である。

このレモンジュースパックを運ぶ行為は、爆弾を持ち歩くことと同義である。

 

例えば自室の床に落として「爆発」させ、大事な機材等が駄目になった場合、この飲料メーカーを訴えることは可能だろうか。裁判では「爆発の前兆は感じていました」などと証言するのだろうか。前兆を感じていたにも関わらず偶然爆発させてしまった私と、爆弾を何食わぬ顔で売る会社とでは、どちらに責任があるだろうか。

 

 

パックを優しく掴んでレジに通し、袋に入れて慎重に家まで持ち帰る。丁寧に口を開けて、1ℓを2日かけて飲み干す。

スーパーの飲料コーナーに平然と並ぶ、このレモンジュースを消費する行為を、私は密かに「爆弾処理」と呼んでいる。

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