夜道
振り返ると、猫がいる。塀の上に座っている。住宅街の民家である。ほとんど真夜中であるが、玄関扉の上にぶら下がる電灯の黄色い光を反射して、目がキラキラ光っており、彼の1日の活動は、まだまだこれからが本番といった感じである。猫らしく前足を折りたた…
友人たちと一緒に、夜の新宿を歩いていた。普段なら酔っ払い共でごった返すだろう東口の通りは、日曜日の、さらには終電まで残り2時間弱という時間帯だからか、意識のハッキリした大人がちらほら歩いているだけという静けさで、拍子抜けである。私たちの目的…
人生の先輩に、「天気の暑い寒いを引きこもりの原因にしてはならぬ」と教わったのだが、昨今の東京は、およそ暑い寒いの範疇に収まらない、並々ならぬ厳しさがあるようで、少なくとも私個人の見解では、日中に外で活動するのは不可能だと考える。しかし、こ…
裸眼で外を歩くのは、恐らく十数年ぶりのことである。15歳からコンタクトレンズを着け始め、それ以前は、ずっとメガネを着用していた。視力が、悪い。頭のてっぺんからつま先までの間で、ほとんどが平均点の機能を持つ中、視力だけが、著しく悪い。数値にし…
19時半に最寄駅で友人と合流し、新宿に着いたのは21時より少し前であった。帰宅ラッシュは過ぎているものの、下り電車はほとんど満員であり、混み合う向かいのホームを眺めながら、私たちはスッカラカンの上り電車で並んで座り、今日明日のスケジュールをヒ…
20時を過ぎても、雨は途切れることなく静かに降り続いていた。平日の夜にも関わらず、路上に人の姿はまばらで、アスファルトが雨に濡れて暗黒の染みを作っている。東京が最も冷え込む2月の夜に、さらに降りしきる雨の中を歩くには、部屋着のパーカーにジャン…
凍りついた夜の街を走っていた。あまりにも寒過ぎる中で運動すると、身体のあちこちで、血液がジュワジュワ泡立つ感覚があるのだが、今のところ誰にも共感されない。路上には、見事に人影ひとつ無く、遠くの大通りから時たま、微かにエンジン音やヘッドライ…
秋は天高く、浮かぶはイワシ雲、ウロコ雲、水蒸気質の巨大な魚が、遠くにゆったり横たわり、偶然発見した人は、まるで生まれて初めて空を見上げたように、広大なる天の青さに陶酔する。 無論、実際空の高さは年中同じで、ただ雲が夏より高い位置に発生するか…
漫画や雑誌を、読む用、観賞用、保存用、同じものを何冊も買うというのは古今東西あらゆる愛好家達がやってきたことだが、小説は聞かない。ひとつの小説作品を、例えば単行本は持っていても、文庫化されたならそれも欲しい、というのはあるかも知れないし、…
幼少時代、誰もが一度は思い描いたであろう景色を、私も見ていた。エスカレーターの階段は、地面の中で逆さになってガラガラ回り、床屋のサインポールは地下数百メートルまで根を生やし、無限に上へと伸び続けていた。物理的な可能不可能を知るより以前、我…
深夜零時近くになって、急にアイスが食べたいと思った。既にどっぷり梅雨入りしたらしいが、偶然にも雨の降らない夜であった。鍵と財布だけを引っ提げて、夜の街へと繰り出した。 深夜の散歩は数ヶ月ぶりである。若干湿った風が静かに吹いている。前にも後ろ…
水曜日からブラックコーヒーにハマって今日で4日目。普段、生ぬるい水しか飲まない自分には強烈すぎる香りに、炭酸やエナジードリンクよりも脳が覚醒させられる気がしている。 あとは、単純に「クリエイティブしてる大人」っぽくて格好良い。最近YouTubeで観…
深夜0時の仕事帰り、夜道で前を歩く若い男性が、腰に薄手のカーディガンを巻いている。 薄手だから腰回りの形がよく見えるのだけど、尻の中央あたりに、長く垂れる棒状の形が揺れている。 恐らくは、男性の正体はキツネがタヌキで、夜だから誰も見やしないと…