いざ、初号機

パソコンの画面が瞬いている。いや、私の不調でそう見えているという話ではなく、事実、画面が点いたり消えたりを繰り返している。朝、ノートパソコンの電源ボタンを押し、パスワードを入力して、デスクトップ画面が映された。ブラウザアプリを起動するため、いつものようにアプリをクリックした、その瞬間、パッパッパと、画面が瞬き始めたので、呆気に取られてしまった。点いたり、暗転したりを、コンマ数秒おきに繰り返している。昔、科学館の展示で、粘土の人形にフラッシュを焚いて、コマ送りに動いているように見せる装置があったが、こちらは何も動かないので、救えない。キーボードを叩いても、マウスを動かしても、瞬きは止まらず、数十秒経って、唐突に暗転した。反応が無い。電源は点いているようである。キーボードもマウスも役に立たない。半ばやけくそで、画面をタッチした。私のノートパソコンは、スマホのように画面を触って操作できる、タッチパネルモニターである。画面を指で叩き、すると、点いた。デスクトップ画面が映った。そのまま指でアプリを押すと、これも点いた。嫌な予感がある。もしかすると私のパソコンは、タッチパネルでしか操作出来なくなったのではなかろうか。

 

「パソコンは、いざという時に必ず壊れる」とは、つい先日聞かされたセリフである。思えば、前兆めいたことはあった。朝起きてみると、パソコン本体が熱した鉄板の如く熱くなっていたこともあるし、去年は、稼働中に突然、画面の下半分だけが暗転し、その後エラー落ちする、ということが、数日に1度は起こっていた。

いざという時。私は昨日、「明日からパソコンで長文を書こう」と意気込んだばかりだった。私のささやかな「いざ」が、長きに渡る不調に、決定的なトドメを刺してしまったのかも知れない。

 

シャットダウンと起動を繰り返し、しかし、画面は相変わらず瞬き続け、何回目かで、何となく再起動してみたら、直った。キーボードもマウスも反応する。拍子抜けである。買い替えずに済んだ、とほっとしていたら、翌日、また瞬いていた。再起動して、直る。私のパソコンは、起動後に1度再起動しないと使えないパソコンになっていた。

「初号機」と名付けられたこのパソコンは、20歳の年に買ったから、今年でもう3年目である。20代前半、人生で最も「いざという時」が多い時期ではなかろうか。私の「いざ」が、今後どれだけ初号機をいじめるのであろう、そろそろ、2号目の相棒を探す頃合いなのかもしれない。

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