地下鉄の改札を抜けて階段を上り、地上へ出ると、「明治屋」と看板を掲げた石造りのビルにぶち当たった。都心も都心、巨大なオフィスビルが整然と並ぶ、銀座の街である。どのビルも1階は店舗になっているが、その上は全部、どこかしらの会社のオフィスが詰め込まれているのだろう、見渡す限り同じように殺風景なガラスが張られている。
各々1階に入る店舗によって各ビルの個性が定まっている。薬局が入るビルは薬局、菓子屋のビルは菓子屋、一棟丸ごとその店舗に制圧された雰囲気である。薬局のビル、菓子屋のビル、文房具屋のビル、役割の明確なビルが綺麗に並んでいるようで、実際は、薬局の上に書店のオフィスが入ったり、菓子屋の上にIT企業のオフィスが入ったりしているのだろう。見かけはシンプル、整頓された街に見えて、そう考えると、雑多ごちゃ混ぜな騒々しさを秘めている。
待ち人、少し遅れます、明治屋にでも入って涼んでいて下さい、と連絡があった。丁度、明治屋の目の前に立っていた。確かに、フラッと暇を潰せそうな店舗は、ここぐらいであった。見渡せば、薬局、高級そうなカフェ。オフィス街を観光するような22歳が、何分も滞在できるとは思えない。
明治屋が何の店なのか、知らなかった。外から覗くと、お菓子やジャムが陳列されていた。成城石井の上位互換か、と意を決して入店した。
入り口付近は、お茶のコーナーであった。プレゼントに丁度良さそうな茶葉の箱が並んでいた。そう言えば、とコーヒーの棚を隈なく探す。最近観ているアニメで、超お金持ちのお嬢様たちがインスタントコーヒーを知らない、という設定だったので、銀座の街にはあるのか、確かめようと思ったのだ。探して、すぐに見つかった。結構な種類置いてあった。お散歩好きのお嬢様なら、インスタントコーヒーもご存知なのだろう。
そろそろ待ち合わせ時間だから、退店しようとして、ふと、レジの横に置かれたチョコレート菓子を見つけ、驚愕した。私がいつも、地元のスーパーで「90円しない安いヤツ」という理由で買っているお菓子であった。
値札に「150円」とある。1.5倍以上である。土地代だろうか、物流の影響だろうか、はたまた、客層か。私が100円玉握りしめて買いに行くお菓子を、銀座の人々は、レジのついでにサラリと150円で購入している。
強烈なカルチャーギャップである。安い物が、安く無くても良いのである。インスタントコーヒーの無知など問題ではない。庶民と高級との隔たりは、90円の菓子によって明確にさせられる。