オカルティックな才能は持ち合わせていない筈だが、過去に一度だけ、それらしいものを発揮した事がある。
高校時代、所謂声優養成所に通っていて、学校終わりに直接スタジオへと向かっていた。
その日、学校を出た時にはもう急いで電車に乗らなければ間に合わない時間で、慌てて電車に飛び乗り、安心したのも束の間、教室のロッカーにジャージを忘れて来た事に気付いた。
制服のスカートではレッスンを受けられない、加えて、今は硬貨数枚しか持ち合わせていない。大人のように「仕方ない、カードで買って行こう」などとはいかないのである。
「忘れたから見学します」と言うか、休むと連絡してしまおうか、迷っている時間は無い、無断遅刻は何としても避けたい。思考をぐるぐる巡らせてショート寸前になったその時、電車は「高円寺」に停まった。
根拠など微塵もない、高円寺なんて降りたこともない。ただ車窓から "それっぽい商店街が見えた"、それだけである。
電車から降りて改札を飛び出し、さっき見えた商店街へと駆け出した。商店街はそこそこ流行っていた。これくらい庶民的な街なら、"ある" 気がしたのである。
数十メートル走ったところで、本当に "あった" 。リサイクルショップ「ハードオフ」である。
ハードオフなら100円ワゴンに古着が積み上げられている。ゼエゼエ言いながらワゴンからTシャツと半ズボンを引っ張り出して、会計を済ませ、そして何食わぬ顔でレッスンに参加した。遅刻はしなかった。
「絶対にあるはず」と思い込んで、本当に存在した、奇跡的な話である。
危機的状況では "第六感的感覚" が研ぎ澄まされて、必要なものを瞬時に探し出せるのかも知れない。
超能力の一端に触れた思い出です。