敗者

実は新年早々「転職活動」に手を染めていたのだが、先日、ようやく一次面接を突破した。ウェブメディアを運営する会社である。

ライターとして応募したから、二次審査ではテストライティングがあり、渡されたキーワードを元に自由に記事を書いて提出するのだが、闘志満々、言われたその日に2000字を書き上げて提出。翌々日、帰って来たメールには「採用をお見送りさせていただきます」とあった。

行き場を失った2000字はどう処理したら良いのか。あまりの呆気なさに途方に暮れながら、明日は好きなものを好きなだけ食べようと決心した。2000字の労力と見合うだけの贅沢をしないと、精神が持たない。

 

 

贅沢と言いつつも、結局やって来たのはお馴染みのショッピングモールである。

どこもかしこも空いている。中央のだだっ広い広場では、土日なら子ども連れで賑わうだろう「おもちゃマーケット」が開催されており、しかし平日だからか店員の姿さえ見えない。据え置かれた巨大モニターは何も映さず、ただ真っ黒な画面からはシルバニアファミリーのテーマソングが大音量で響いていた。まるで世紀末である。

 

贅沢をしに来たので、サーティーワンでアイスを注文した。冬に食べるアイスクリームほど贅沢なものはないだろう。

ベンチに腰掛け、カップから溢れそうなほど積み上げられたアイスを削り取る。メニューをよく見ずに注文したから、なんだか酒のような、あんずのような、独特の風味があって驚いた。自分には、まだ早かったのかもしれない。

 

雑貨屋や書店をくまなく探索して、ほとんどモールを一周した頃、今度は本格的な空腹である。いつもならマックに駆け込むところだが、今日は違う店に入ってみようか。

先程は慣れない贅沢で微妙な心地を味わったから、今度こそ失敗出来ない。フロアマップを凝視して、どこなら相応の贅沢を味わえるか吟味した結果、高そうなハンバーガー屋にやって来た。「マックの最上位互換だろう」という失礼な憶測である。

 

注文したら 「焼き上がりまで15分近くかかる」という。ハンバーガーの何処に15分もかけるのか。ペプシを啜りながら待っていると、十数分後、運ばれて来たのは真っ二つに割れた、食材盛りもりのハンバーガーであった。

店員は「ペーパーで包んでお召し上がり下さい」とだけ言い残して去って行った。割れた2つを合体させて、自力で完成させてから食えと言うのだ。

溢れかえるソースと格闘しながらバンズを合わせて齧り付く。恐らくはマックの数倍美味しいハンバーガーだったが、食べている間、脳裏に浮かぶのは「幾ら上乗せしたら完全体のハンバーガーで出してくれるんだろう」という一点のみであった。

 

 

鉛が詰まったような胃を抱えながら帰路につく。

コンビニに立ち寄れば、駄菓子コーナーに「福福鯛チョコレート」という鯛のキャラクターが描かれたお菓子が売っていた。60円。

家に帰って袋を開ければ、たい焼きの形をした最中にウエハースとチョコが詰まっている。

 

福福鯛をザクザクやりながら「今日はこれが一番美味しかったかもな」などと呟きかけて、「贅沢な一日」の夜は更けていった。

secret.[click].