シルバニア産の冷蔵庫を買った

書店を冷やかしに行こうと、ショッピングモールへやって来た。普段なら書店以外には見向きもせずに歩くのだが、ふと目をやった店先に、大量のシルバニアファミリーが並んでいて仰天した。

「あらあらあらあら」と店まで吸い寄せられる。先週までは只の手芸屋さんだったはずが、何故かミニチュアの家・動物たちの人形・家具セットの箱が所狭しと積み上げられ、ほとんど専門店のようになっていた。

 

私はシルバニアファミリーを買ったことがない。幼少期に友達の家で遊ばせてもらったくらいである。

断片的な記憶から、シルバニアにはウサギしか存在しないものと思っていたが、犬猫はもちろん、トナカイ、ヤギ、牛、パンダ、アヒルやキリンに至るまで、種族も色形も様々な動物たちが仲良く暮らしているらしい。グローバルである。

値段もそこまで高くない。元々のミニチュア好きも相まって、「何も買わずに出る」という選択肢が完全に消えてしまった。

 

人形から買うべきなのだろうが、入店早々、私が最も心惹かれたのは「冷蔵庫セット」であった。家具家電はどれも精巧な装飾が施されており、目移りしてしまう出来なのだが、中でも冷蔵庫は単体でも存在感ある大きさ・重量があり、中身の食材や飲み物も付属している。大変お得なセットである。

 

1000円ちょっとの「冷蔵庫セット」を片手にレジへ向かおうとして、はたと我に帰った。記念すべきシルバニアファミリーデビューが、冷蔵庫だけとは如何なものか。動物がいて、初めてシルバニア「ファミリー」である。このままでは、ただシルバニア産の冷蔵庫を輸入しただけではないか。

慌てて「はじめてのお友達」コーナーへと舞い戻った。つぶらな瞳たちからの視線を一身に受けながら、一人一人を取り上げ、隈なく吟味し、最終的に「マシュマロネズミのみつごちゃん」と「クマの赤ちゃん」の2択まで絞り込んだ。

 

一目惚れしたのは「みつごちゃん」の方である。まんまる真っ白な三つ子が並んで箱に収まる姿は叫び出したいほど愛らしいのだが、しかし、片手に掴んでいる冷蔵庫と並べた時、スプラッタ映画に毒された私の脳裏には、どうしても「冷蔵庫に詰め込まれた3体の赤ちゃん」が浮かんでしまう。冷蔵庫は「みつごちゃん」がちょうど全員入りそうな大きさである。

 

結果、「冷蔵庫セット」と「クマの赤ちゃん」を購入した。「みつごちゃん」は、ベビーカーとかベットだとか、その辺が揃ってから迎えることにする。

冷蔵庫を組み立て、上にクマの赤ちゃんを載せてみた。

幼年にして自分専用の冷蔵庫を買い与えられた、良家の坊ちゃんのようであった。

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