問題_2 「目撃者」

※この短編は中学2年生の時に初めて書いたフィクションです。(一部修正)

 

***

二人の親子が入店してきた。僕の前を通り過ぎて席に着き、メニューを開く。三十くらいの母親と、幼稚園児くらいの少年である。

日当たりの良い定食屋のレジ、そこが僕の仕事場で、基本的にそこから動くことはなく、毎日休むことなく働いている。

ずっと座りっぱなしの仕事だけれど、辞めようと思ったことは一度も無い。大抵は隣に人がいてレジを打っているから寂しくはないし、たしかに腕は結構疲れるけど、それが我慢出来ればこんなに穏やかな仕事場って、ほかに無いと思う。

 

今日も僕はせっせと働いていた。店の入口は僕から見て右手にあって南向き。しかもガラス戸だから日当たりが良い。今日は晴天、さっきの親子も、きっと公園で遊んだ帰りに違いない。

 

ふと、店先の路上で何かが動いた。

よく見てみると、2つの影が争っている。一方の奴がもう片方に殴りかかった。殴られた方はひっくり返って脚をバタバタさせている。殴った方はというと、持っている鋭利なものを相手めがけて振り下ろした。バタバタしている相手の脚に直撃して、脚は根元からスッパリと切断されてしまった。

 

これは、

思いがけず惨殺の瞬間を見てしまった。

どうしたもんか…脚を切られた奴はひっくり返ったまま、ひくひくと痙攣している。きっともう意識も、助かる見込みも無いだろう。

襲った奴はというと、何歩か後ずさってから回れ右をして、ゆっくりと去っていった。

 

 

食事を終えた例の親子がレジに勘定にきた。母親は焼き魚定食、少年はお子様プレート、

「1200円になります」と店員が言う。

少年は元気よく「ごちそうさま」を言った後に、僕に

「またくるね」

と言った。

ああなんて嬉しいことだろう。仕事の成果がはっきりと見えるのはこの上ない幸せである。

 

親子はガラガラとガラス戸を開けると、路上のソレを見つけた。

 

「あ、しんでる」

 

少年はそれを指さす。少年はそういうものになれているみたいだけれど、母親の方は、

 

「ひゃっ」

 

と小さく悲鳴をあげた。少年は母親に、

 

「ぼく、おはかつくるね」

 

それをつまみ上げると、はす向かいの公園に走っていった。母親も息子を追いかける。

 

僕はほっとした。無残な最期を遂げたあのカマキリもこれで成仏できると思う。

少年の手からこぼれ落ちたカマキリの前脚は、道路側の水路に沈んでいった。

 

 

あの少年はまた来ると言ったけれど、それ以来店に来ることは無かった。「最近は客の入りが悪い」とぼやきながら、店主は毎朝、僕の頭を布巾で磨く。カウンターに置いてあるテレビは冬の訪れを報じていた。

 

 

 僕は今日も、小判を抱えて、せっせと左腕を動かし続ける。

 

この店に客を招くこと、それが僕の仕事である。 

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