自室のすぐ裏には伸び放題に伸び続ける木が生えており、強風が吹けばバサバサと窓を叩いてくるのだが、最近、その木に1羽の鳩が住み着いたようである。
毎朝のように「ベチベチベチ!」と窓に鳥が衝突する音で起こされ、狭苦しい住宅街でなぜ毎度ピンポイントでこの窓にぶつかるんだと不思議だったのだが、どうやら朝イチ飛び立つ度に間違えてこちらへ羽ばたいてしまうらしい。要するに、連日連夜この木で寝泊まりしているということである。
夕方、カーテンを全開にして生い茂った木を眺めていたら、ちょうど件の鳩が帰って来た。とは言え、鳩など全部同じ見た目だから「実は日替わりで1羽ずつこの木を使わせてもらってます」と言われても納得せざるを得ない。駅前で群れを成す鳩も、私の部屋のすぐ横で寝泊まりする鳩も、全ての鳩が同じ個体のクローンに見える。
容姿の選択肢は脳の体積に比例しているように見える。生まれた性別や環境での違いはもちろん、文化や趣味や仕事ですら体格や容姿に違いを生む。多様な文化や趣味を創るには、相当大きく高レベルな脳が必要である。
人間は膨大な物事を創り出せる脳の大きさに加えて生存時間もやたらと長いから、年齢を重ねた老化が最も顕著に現れる。容姿のお洒落を楽しみ、老化を恐れるのは人間特有の趣味であり、随分と贅沢な悩みである。
鳩からすれば、人間も「頭に毛を生やして二足歩行する動物」程度の認識かもしれないけれども。
1羽の鳩が住み始めてから数日経ったある日、夕方になってバサバサと帰ってきたのは2羽の鳩であった。
単なる仲間なのか番なのか、2羽は仲良く「どの枝に留まるか」を行ったり来たり吟味した後、同じ枝にぴったりとくっついて落ち着いた。そもそも、まだそこに住むことを許したわけでは無いのだが、更に居候を連れてくるとは良い度胸である。
そこに住むからには「金輪際、窓に衝突しない」と誓ってもらう。それさえ守ってくれれば、同じ鳩が1羽から2羽に増えたとて、大した影響はないだろう。
何処かで、うっかり分裂してきたのかもしれないし。