10月16(蛙)

やらなければならない仕事は全て終え、歯磨きも風呂も済ませて布団をめくり、文字通り「あとは寝るだけ」の状態になってから突然、重大な見落としをしていたことに気が付く。というようなことが頻繁にある。

「重大な見落とし」とは時に「明日必要なのに用意し忘れていたもの」だったり「3ヶ月ごとの眼科の予約」だったり、単純な「忘れもの」ならまだ良いのだが、救いようが無いのは「全く気にしていなかった物事」を急に思い立って絶望する時である。

 

昨晩、布団に入り目を瞑ってから数秒後「この毛布は汚い」という恐ろしい事実に気がついてしまった。

私は毎日この毛布くるまって寝ているから、数ヶ月おきには洗うようにしている。前回洗ったのは夏だろうから、6月か7月あたりか。

じゃあ、もうそろそろ洗わなければいけないじゃないか。毎日、身体じゅう頭じゅうを擦り付けている毛布が清潔であるはずが無い。直ぐにでも、明日にでも洗わなければ。と、真っ暗な中スマホを付け、天気アプリで今週の天気を確認する。10月も後半に入り、晴天かつ20度を超える日などそうそう無い。今後はどうなるのか、去年の天気まで検索しだす始末である。

 

こういう突発的な絶望において最も悲惨なのは「気付く瞬間までは全く気にしていなかった」という点である。

毛布の件で言えば、前述通り定期的に洗う習慣があるのだから、だからおとといまで「毛布の綺麗さ」など微塵も気にならなかった。何なら毎回干すだけで終わらせている枕の方がよっぽど汚い。

にも関わらず、ピンポイントで「毛布が汚い」事実だけが重大であるかのように絶望するのである。

 

恋愛において、「片想い中は夢中だったのに、いざ付き合ってみたら幻滅する現象」をしばしば「蛙化現象」と呼ぶが、これは「元々良い印象だったもの」に絶望する現象である。

それで言うと、私の「突発的な絶望」は「何の印象も無かったもの」に突然、絶望している。王子様が蛙に変わったのではなく、無から蛙が飛び出している。

 

現れた蛙にいちいち振り回されるのはいい加減大人気ないと思うのだが、想像してみてほしい。布団に入ったところで突然蛙が飛び付いてきたら、大騒ぎしちゃうじゃないか。

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