9月26日(羽繕いと世界の終わり)

桜木町駅の自動販売機の上で、鳩が羽繕いをしている。

猫の毛繕い等とは違って、クチバシを羽に突っ込んで中身をほじくり返しているので、猫が「櫛で梳かしているよう」なら、鳩は「ささくれをぶち抜いているよう」である。見ていると、羽と羽の間から、大きめの綿毛を引っ張り出そうとしているらしい。

数分かけて、何とか引きずり出せたものの、今度はクチバシに引っ掛かって煩わしい。脚で顔を引っ掻き回して、ようやく鳩は落ち着いた。

「羽繕い」という言葉らしい情緒は無く、もっと切実で、必然的な行動であった。

 


目を開くと、世界の終わりが始まっていた。曇天の空からは無数の隕石が降り注ぎ、新宿の高層ビル群を破壊している。アスファルトは割れ、地下からムカデが這い出ている。逃げ惑う人々は、皆だんだんと身体を甲羅に侵食され、人間からかけ離れた姿へと変貌していく。

一度目を閉じて、もう一度目覚めれば、元の平和な世界へ戻れると分かっている。目を開くと、自室のベッドの上であった。もう14時を過ぎている。昨日までの雨は過ぎ去り、緩やかな日差しの午後。

さっきまでの終焉の世界が現実で、こちらは、壮絶な終わりを迎えた世界で絶望した私が見ている幻覚なのかも知れない。

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