12月26日(鳩)

恐ろしく太った鳩が歩いていた。

 

寒さが一層際立つ夕方。目をかっぴらき、風で眼球を冷やしながら歩いていると、脇道からヨタヨタと1匹の鳩が出てきた。そのまま直ぐ目の前を歩き始めるから、あたかも私が鳩を尾行しているような絵面である。

 

さすがに冬であるから、鳩だって犬猫と同じように脂肪を蓄えたり、羽毛が増えたりもするだろう。それにしたって、こいつは明らかに体が膨張し過ぎている。

首から上は一般的な鳩と同じくシュッとしているが、その下の胴体部分は頭5つ分くらいの横幅があり、公園で戯れる鳩たちの2倍ほどもありそうである。後ろ姿はほとんどボールであり、まんまるな体から細い首が生えているもんだから、まるで枝がついたままのリンゴのようなシルエットである。

仮に羽毛が増え過ぎたとして、ここまで膨らむものだろうか。翼を広げて胴体の毛を全部むしり取ったとして、そもそもの体自体が随分恰幅良い気がする。

 

大き過ぎる体を左右に揺らしながら、ヨタヨタとバランス悪そうに歩いている。このままだと踏み潰しかねないので、外側から追い越してしまうことにした。

2メートルほど離れていたところから、少しだけ早歩きする。直ぐに鳩の真後ろまで来たが、人馴れしているのか全く驚く素振りを見せない。蹴り飛ばしそうな距離まで近付いたところで、ほとんど跨ぐように追い越した。

10倍以上ある巨人に踏まれそうになったにも関わらず、鳩はただただ目の前を見据えてヨタヨタ歩き続けるだけであった。追い越しざまに横目で見れば、閉じた翼のお腹側から細長い羽根が突き出ている。抜けかけのものだろうが、なんせ体が大きいから、自分では見えない位置であろう。大きな腹を抱えて、自力で靴下が履けない人間を思い浮かべる。

 

少し歩いてから振り返ってみた。歩く姿は前から見ても不恰好だったが、前を見据えるその眼差しには「覚悟」か「決意」か、およそ野生の鳥とは思えない、人間味溢れる感情が滲んでいて、ハッとした。

 

でっぷり太った人間が、ある朝目覚めたら鳩になっていた。鏡を覗き込み、鳩になったとて相変わらず大きく重いままの体に失望する。

鳩になった人間は、大き過ぎる体を抱えて歩き続けた。いつかその翼で、自由に空へと羽ばたける日が来ることを、夢見ながら。

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