ドコモタワーを見上げて

代々木という街は不思議な場所で、新宿から徒歩数分の地続きでありながら、新宿のように流行のブティックが並ぶわけでも無ければ、百貨店も映画館も見当たらない。かと言って、裏原のように、路地裏に洒落た古着屋街が隠れているわけでも無く、代官山(なんて降り立ったことも無いのだけど)のように澄まし込んだ店が立ち並ぶわけでも無い。ウィンドウショッピングのような遊びを想像して、来てみると、全く何も無い。あるのはコンビニと、背の低い雑居ビルばかりである。見所のない街だ、と、Googleマップをよく見れば、低い雑居ビル群は、スタジオ、芸能事務所、声優養成所、その他無数のオフィス、諸々、目的のはっきりした施設の集合体である。例えば、代々木のスタジオで練習をして、帰りに皆で夕飯でも食べて、と、ここで初めて、気付くのである。代々木には、ファミレス、喫茶店、居酒屋、ありとあらゆる飲食店が集合している。明確な目的のために訪れて初めて、代々木という場所の便利さを知る。ここは、ここでやるべき事のある人たちが集まり、そういう人たちに向けた店が集まる場所である。つまり、代々木は観光に向かない。

 

スクランブル交差点を渡って、代々木駅舎を振り返ると、駅の向こう側に高い塔がそびえ立つ。ロンドンの時計塔のような形で、先端の三角錐に尖った部分は、夜、綺麗にライトアップされている。代々木のランドマークである。高校生の頃は、代々木を訪れる度に写真に撮っていた。私のガラケーには、白や紫や水色に輝く塔の先端が、何枚も保存されている。

先日、初めてこの塔の足元を見る機会があって、なんと、ランドマークタワー的見た目はあの先端だけで、下は、周りの建物と変わらぬ、ありきたりなオフィスビルであった。加えて、調べてみたら、ビルの上半分は通信基地局なのであって、アンテナをなるべく高い位置に設置する、ただそれだけの施設だという。決して「代々木のランドマークとして、塔があったら素敵でしょう」というロマンの建築などでは無く、「通信基地局」というはっきり目的を持った建造物であった。

確かに、スカイツリーも東京タワーもそうである。「観光のために高い塔を建設しましょう」と言って建てられた塔など未だ存在せず、純粋に実用的な問題のために建てられた塔を、「非常に高いから」という理由で、無理やり観光地化しているだけである。あまりにも高過ぎるから、観光地化するより他にない。富士山と同じである。もっとも、富士山は、自然に発生してしまった「高過ぎる、大き過ぎる」だから、余計手に負えない。

 

実用的な問題の副産物として、うっかりランドマークにもなり得るのなら、「観光地」とは元来、偶然のおっちょこちょいで生まれるものではないか。どう抗っても見逃せないものは、観光名所にしてしまえば良い。

実用的に必要なだけの塔が十分に立ち揃った後、人は初めて、純粋なロマンを目的に「高い塔」の建設に取り掛かるだろう。そんな無邪気な塔を、生きているうちに見たいものである。

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