三季分立

暑い、非常に暑い。周知の事実なのだから、わざわざ書き記す必要など無いだろうに、にしたって、暑い。いきなり夏本番である。四季が無い。梅雨・夏・冬しか無いようである。大雨、酷暑、極寒、それぞれの間にグラデーションがまるで無い。揺るぎない個体を、ダンダンダンと3つ並べただけである。区切りは限りなく直線であり、線を越えたら、直ちに次の気候に順応しなければならない。このままでは「夏に向けて」も「冬支度」も出来なくなってしまう。

数百年後には、昨日は半袖、今日からダウンジャケットが必要になる。犬猫に至っては、昨日までは豊かな冬毛、一晩中に全てを抜けきって、今日から夏仕様。極端な温度調節が必要に違いない。

 

一歩外に出れば、直射日光でひとたまりもない。休日だろうが夏休みだろうが、室内で生活するに限る。有り体に言えば「引きこもり」である。

最近は「フォールガイズ」が無料で配信されたので、毎日1回はプレイしている。ファンシーな色合いの、ふざけた空気蔓延る、オンライン障害物競争ゲームである。運の要素が強く、ゲーム下手でも勝機があるから、のめり込んでしまう。博打に近い種目もある。微塵の生産性も無いのに、うっかり1時間やってしまう。毎度、思いの外時間を無駄にしてしまって、絶望する。

霧散した思考と時間を取り戻すために、「ドグラ・マグラ」を読み始めた。日本三大奇書のひとつである。記憶を無くした精神病患者の話であり、独特な文体、精神科医の理解不能な説明など、とにかく脳を酷使する。しかも上・下巻あるために、読んでも読んでも終わりが見えない。上巻を半分ほど読んだが、起承転結の「起」から一向に進まない。有意義である、という説得力は凄まじいが、あまりの途方も無さに、絶望する。

天秤は2つの物体で釣り合うが、それは中心の「支点」あってこそである。物事は3点でバランスを取っている。両極端の2点のみでは、その落差を平均化させる基準が無い。3つあることで初めて、質と周期が安定する。「フォールガイズ」と「ドグラ・マグラ」では、高低差が生まれるだけである。私が弾け飛んでしまう。

 

季節は、三季でちょうど良いのかも知れない。いずれ梅雨も完全に消滅し、夏と冬だけになって初めて、本当の「生命の危機」に瀕するだろう。人間は、もう1点の「支点」を見つけられるだろうか。 

一日中引きこもって、夜、コンビニまで出掛けた。熱気が夜の冷気に溶かされ、ぬるい風が吹いていた。大きな黄色い三日月が、霞にぼやけて滲んでいた。

夜は季節に関係なく美しくて、良い。

 

secret.[click].