回想センチメンタル

16時半、洗濯物を取り込むためにベランダへと続く窓を開けると、途端に涼やかな風が吹き込んできた。つい先週までは、外に顔を突っ込むだけで、植物園の温室かのような青々しい息苦しさがあったが、ようやく爽やかな季節である。1匹の黒アゲハ蝶が、夕方の霞んだ青空をバックに、ふわふわと頼りなく飛んでいた。子どもの頃、よく虫取り網で捕まえていた蝶である。決まったルートを巡回して飛ぶから、同じ場所で網を構えていれば、同じ蝶が通る度に何度でも捕まえられた。昔は、飛んでいる蝶をチラと見上げただけで、黒アゲハ、黄アゲハ、青筋アゲハを見分け、さらに雌雄まで言い当てていたのだが、今、眼前を飛ぶ黒アゲハは、まだ明るい空の逆光になって、ただのっぺり薄黒いシルエットである。色らしい模様が見えないから、恐らく黒アゲハだろう、という程度である。もしかして、子どもの私は、根拠の無い勘、当てずっぽう、ただの見栄っ張りで、あれは雄だ、雌だなどと自信満々に宣言していたのではなかろうか。

夏の終わりに、嫌なことに気付かされた。黒アゲハなど、ふわふわ夕陽に飛び込んで行って、そのまま燃えてしまえばいい。

 

最近は自宅での仕事が多いから、滅多に外へ出なくなった。思い立って数日ぶりに出掛けてみると、何故か毎度、高校生たちの下校時刻にぶち当たる。先日は、薬局へ行こうと歩いていたら、前方に女子高生の4人組が現れた。絶え間なく笑い声を響かせながら、時々、不自然な芝居口調になっている。後ろをついて歩きながら耳を澄ますと、どうやらアルバイトの面接ごっこをしているらしい。1人が面接官として質問し、もう1人が答える形である。「なぜこの会社を選びましたか?」かしこまった口調で問い掛けて、答える1人は、いかにも本当の面接中のように「そうですねえ」と口籠もり、それをもう2人がカラカラ笑って揶揄っていた。私は、彼女たちの後ろをぼんやり歩きながら、泣きたいような気持ちになった。自分の高校生時代は、あんなにも可愛らしいものだっただろうか。大人から見る高校生には特別な輝きがある、とよく聞くが、遂に自分も、そんな風に感じる年齢になったのである。

昨日など、バスの車内、女子高生が2人並んで座り、プリクラの機種によっていかに盛れ具合が違うか、真剣に議論している様を目の当たりにした。2人は、これからショッピングモールへ、プリクラを撮りに行くらしかった。スマホの写真フォルダを見せ合いながら、過去のプリクラの写り具合を、無邪気に褒め合っていた。私は、2人が座る席の、その奥の車窓に流れる夕方の都会の喧騒を、ひとり黙って凝視していた。