大音量で響き渡るサイレンが実は幻聴だった、ということが2度あってから、世の中の大抵の異音は「どうせ幻聴だろう」で片付けている。救急車やパトカーのサイレンはもちろん、最近ではクラクション等の緊急音も聴き流しているから、いつか「本当に重要な知らせに気付かず絶体絶命」なんて事になりそうだな、と震えている。
今回は、風呂場の換気扇がブオンブオン鳴っていて、困ってしまった。
風呂から上がり、浴室の換気扇を点けると、風の音に混ざるのは激しいモーター音である。昨日までは無かったはずであり、あまりにも大きい音だから、これは家族全員気付いただろうと翌朝、母に聞けば「特に分からなかった」と言う。深夜に風呂に入るのは私くらいだから、もしかしたら時間や湿度の関係で鳴っているのかも知れない。それか、例の幻聴である。
試しに「換気扇 異音」で検索してみれば、「火災」の2文字が出てきた。寝ている間に風呂場ごと爆発したり、起きたら家が焼失していた、などという事態に発展するかも知れないのだ。これは相当な危機である。
家族は誰も気付いていない。まずは問題の異音を周知するため、スマホで録音してみることにした。
深夜。換気扇を点け、ブオンブオン鳴り始めたところにスマホを突っ込み、録音ボタンを押す。1分程度収録し、自室に戻って再生してみたところ、風音ばかりで、例のモーター音は聴こえなかった。
そして録音した次の日から、換気扇の異音は無くなったのである。
果たして、どちらか。
「スマホの録音ではモーター音が入らなかった」という場合。実際、風音の方が圧倒的に大きいから、低音のブオンブオンが掻き消された、という可能性は大いにある。
そして、「やはり幻聴だった」という場合。録音して聴く、という第三者的立場で冷静に確認したことで、初めて「聴こえないという事実」を認識出来たのかも知れない。
風呂場が燃えるのが先か、本当と幻聴の区別がつかなくなるのが先か。
そこそこ危険な賭けであるが、個人的には前者であって欲しいと、切に願っている。