「進路選択」_4/4

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 穏やかな風が吹いている。

 

 今年の桜は早く咲いて、流石に満開とまではいかなかったけど、グラウンドの桜の木はところどころ蕾が開いていて、みんなで写真を撮ってはしゃぎまわった。

 

 私は3年生に上がる時、ずっと先延ばしにしていた進路選択を『大学進学』に決めた。国から届いていた大量の催促状は、ひとつ残らず送り返してやった。

 通学のしやすさと、偏差値とで選んだ数校を見学し、楽しそうだと思った大学を志望校に選んだ。それからは学校の授業もちゃんと受けるようになったし、予備校にも通って必死に勉強した。人生で一番勉強したんじゃないかと自負しているけど、やっぱり雨木さんには敵わないと思う。

 生きることを選んだ私は、4月からは大学生として生きていく。

 

 雨木さんたち安楽死組は、卒業式が終わったら施設に入るのだという。諸々の手続きを済ませて、3月31日のその日まで、専門のメンタルケアを受けながら穏やかに過ごすらしい。

 

「卒業生、入場」

 

 講堂の扉が開かれる。

 無限に続いていく毎日の中で、もしいつか「死ぬ意味が無い」以外にも生きていく理由を見つけられたら。その時は、雨木さんにも伝えに行くよ。

 それがいつ見つかるのかは分からないけれど、生きている理由を探すために、私はこれからも生き続ける。

 

 暖かな風が吹き抜けて、雨木さんのツインテールが揺れていた。

 

 完

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