世界の終わり

自室の6帖間には、小さな円形のラグが敷いてある。毛足が少しだけ長く、緑色だから、そこだけ沼地のようにも見える。風呂上がりには、この上で胡座をかき、スマホを弄るのが習慣なのだが、ふと目をやれば、沼地から1本だけ「みょん」と長い毛が飛び出ていた。

抜けそうである。つまんで軽く引っ張ると、抵抗感なく、いとも簡単に抜けてしまった。沼地に生える他の毛よりも、倍以上に長い。

もしかして、沼地の毛は本当は全部この長さで、半分以上は裏地に編み込まれているのではないか。編み込まれていた部分が何かの拍子にスルッと解けて、簡単に毛が抜ける事態になるのではないか。ちゃんと生えているように見える毛たちも、いずれはスルスル抜けていって、最終的には裏地だけに、禿げ上がったただの円形になるのではないか。

 

そういえば先日、沼地のすぐ向かいに置いてある本棚が、いずれ崩れることを知った。

アルミ製のラックであり、ネジも無いのに4本の支柱と4枚の面が固定されているのだが、よく見れば、ただ柱と面の接合部分にゴムが噛ませてあるだけで、その証拠に面をグッと押し上げれば、置いてある本と一緒にガタンと持ち上がった。

ゴムの摩擦で何となく固定されているだけなのである。例えば、とんでもない量の本を押し込んだとして、重さに耐えきれずに突然、面が抜け落ちるのではないか。抜け落ちた拍子に支柱が傾き、その下も、またその下の段も外れて、本の大雪崩が起きるのではなかろうか。

 

はたまた、この家は私が小学生の頃に建てられたから築15年程度であるが、10年検診だか何だかの機会に、家の四隅の一角が少しだけ開いていたという。随分後になって聞かされたのだが、その開いていた一角は私の部屋の一角であり、つまり何かの拍子に巨大な力が加われば、この6帖間の角は観音開きのようにパッカリと開き、空が見え、風が吹き込み、床が崩れ、天井が崩れ、自分は禿げ上がった沼地と投げ出された本たちと一緒に、6帖間によって潰されるのではなかろうか。

 

物はいつか必ず壊れるのだから、その「いつか」が今日じゃないという保証は無い。次の瞬間には、沼地の毛が全部抜けているかもしれないし、本棚は崩壊しているかもしれない。朝起きたら「部屋が外になっていた」なんてことも、あり得なくは無いのである。

「世界の終わり」は、確かに、現実と地続きの未来である。