10月4日(ホラー)

約2ヶ月ぶりに人前で踊ったので、引きこもり生活では所在のわからなかったアドレナリン達が一斉に脳内を駆け回り、身体だけが疲労困憊になった結果、帰宅後「延々とYouTubeでホラー動画だけを観続ける」という謎のハイ状態に到達した。ランナーズハイならぬ「ダンサーズハイ」である。

 

作り物のホラーを平気で鑑賞出来るようになったのはいつからか。

幼少期は「現実と妄想の境目」が全く無く、故に今思い返してもどの記憶が現実でどれが妄想だったか曖昧なのだけど、そこに溶け込むフィクションは「現実と妄想の境目」をさらに濁らせる存在であった。

「現実・フィクション・妄想」を完全に切り離して理解できるようになったのは中学生くらいなので、かなり遅い方かと思われる。高校に入る頃になってようやく「フィクション=作品」として鑑賞出来るようになった。どんなに映像がリアルとて、貞子はテレビから出てこないし、夜道で鬼太郎に出くわすことも無い。

 

先日は「IT」をゲラゲラ笑いながら観られたので、ホラーは得意な方である。ハイ状態でパソコンに齧り付き、肝試しから心霊ビデオから、関連動画に次ぐ関連動画。数時間かけて辿り着いたのは、富士急ハイランド「戦慄迷宮」の動画であった。

ユーチューバーは泣きながら絶叫しているが、とんでもなく楽しそうに見える。セットのクオリティも高いし、何より「怖さの緩急が絶妙」というコメントが魅力的でならない。

 

 

数時間分のホラー動画に想いを馳せながら、静かな住宅街を散歩する。「1人で戦慄迷宮周ったらどうなるかなあ」などとニヤニヤしながら、はて、今日はクリーニングに出したジャケットを受け取る日だと思い出した。

 

道沿いにクリーニング店が見えてくる。ちょうど店からおばさんが出てきたところで、「入れ違いで直ぐに受け取って帰れそうだ」と店のドアを開けようと手を伸ばした瞬間、おばさんがクルッとこちらを向き、突然「ごめんねえ!」と大声を発した。

つい数秒前まで戦慄迷宮をめぐる自分を想像していた私は、完全に「お化け屋敷の緊張感」であったために、おばさんが声を発した瞬間に「うわあああああ!」と大絶叫してしまった。

突然叫びだした私におばさんも驚いてしまい、本当に申し訳なさそうに謝ってくれる。落ち着いて聞いてみれば、おばさんはクリーニング店の店員であり、単に「ごめんね、15時まで休憩だから、その後来てね」と伝えたかっただけらしい。

 

ホラーが得意なのも、現実と妄想の区別がつくようになったというのも、撤回する。

このままだと、実際にお化け屋敷に行ったとして、帰り道すれ違う人を全員お化けだと思い込んで殴り倒しかねない。

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