9月29日(ボトルメール)

派遣サービスというのは一見「自分に合った仕事を紹介してくれるサービス」かのように思われるが、実際は「求人サイトに載っていない求人を大量に閲覧・エントリーできる」だけのサービスである。なんなら、普通は「エントリー→面接→採用」のところ、間に派遣会社が挟まるので「エントリー→派遣会社内での社内選考→面接→採用」と、1つ関門が増える形になる。

「結局、普通に求人サイトから企業に直接応募するのと、倍率的には上がっているのでは無いか」。しかしながら、職のない人間に疑問を持つ権利は無い。

 

今日も今日とて、せっせと派遣サイトのエントリーボタンを押していく。

1日のエントリー数に制限は特に無いので、ざっと目を通して「完全在宅事務である・場所・資格」の条件をクリアしていれば即エントリーボタンを押す。

毎日平均して5〜10件エントリーしているが、次の日には社内選考で弾かれて「ただいまのエントリー数:0件」と表示されているので、耐えられない。転職に成功した人など存在しないのではないか。

 

 

大量の求人に応募したり、企業や事務所に履歴書をばら撒いたりする姿は、太平洋にボトルメールを投げる様に似ている。

心の内と自分の情報を綴った紙をボトルに詰め、えいやと海に投げる。ボトルは波に飲み込まれて、台風やらハリケーンやらに巻き込まれながらも、アメリカの海岸に流れ着く。砂に埋もれかけたボトルを誰かが拾い上げ、「返事をくれ」という文字を見て、私にメールを送ろうと考える。

「Hi. 久しぶりに海を見たくなってね。サンダルを脱いで砂浜を歩いていたら、君の手紙を見つけたよ。」

 

ボトルメールに記すのは、たかだか名前とメールアドレスくらいだろうが、私は派遣会社に住所から電話番号から職歴から膨大な個人情報を提示している。加えて、求人へのエントリーや履歴書を添付したメールは「必ず相手に届いている」のである。

相手の手元に届いており、返信先も明記されているのだから確実に返事が来そうなものだが、待てど暮らせど、何処からも何の音沙汰も無い。

 

 

結局は、投げた人間の力量不足か。投げ方が下手過ぎて、実は全然アメリカ方向に飛んでいなかったのかもしれない。私が投げた大量のボトル、岩手の海岸に引っ掛かっていやしないか。

 

あとはまあ、ボトルのクオリティだろう。

西海岸にたどり着く頃には浸水して紙がドロドロになっているのかもしれない。水とゴミと砂が入り混じったボトルなど、誰も拾いたいとは思わない。

「Wow, コイツはひでえ。汚ねえボトルがこんなにたくさん積み上がってるぜ ...」

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