9月21日(時代)

「十角館の殺人」から始まる綾辻行人の「館」シリーズ全9巻は、中学時代に全て読破済みなのだけど、同作者にはもう一つ「囁き」シリーズという代表作があり、こちらは本格ミステリの看板を背負う「館」シリーズと比べ、一層ホラー風味の強い、一巻完結の三部作である。

中学生の私には「囁き」の怪しく淀んだ空気、誰かに見られているかのような緊張感がとにかく恐ろしく、結局は一冊も読み切らずに放置してしまっていた。

今年に入って新装改訂版が出るとのことで、「囁き」シリーズに再挑戦。先日発売の3巻目「黄昏の囁き」を読み終えたのが、午前中のことである。

 

窓からはピカピカに磨かれた青空が覗いており、いかにも「夏真っ盛り」と言いたげだけども、流石は9月。外に出れば、そよぐ風は案外涼しく、心地よい散歩日和であった。

 

 

歩きながら、先程読み終えた「黄昏の囁き」について考える。

冒頭で主人公の兄がマンションの最上階から転落し、トラックに轢かれて死亡するのだが、マンションについて「7階建て」と書かれていた。

反対車線に建つビルを下から数えてみる。7階が、思ったよりも遥かに低くて拍子抜けしてしまった。読みながら想像していたのは、実際には15階くらいの高さであり、「そんな高さから落ちるなら、続けざまにトラックにまで轢かれなくても」なんて思っていたのだけど。

 

現実の7階を見上げてみれば「落ちてもワンチャン死なないのでは」という気がしてくる。なるほど、7階程度から落ちるなら加えてトラックでも突っ込まないと、完全には息絶えないかもしれない。「トラック」が作中のキーワードでもあるから、「仮に7階から落ちた段階で絶命していても、関係無くトラックは突っ込んできただろうな」とも考えられる。いずれにせよ主人公の兄が不憫でならない。

 

 

帰ってきてからは、有栖川有栖の「カナダ金貨の謎」を読み始めた。先週書店で購入した最新作である。

数十ページめくったところで、作中の刑事が突然「ネット」だの「スマートフォン」だの言い始めてびっくりしてしまった。慌てて奥付を見れば「初出 2017年」とある。

 

「黄昏の囁き」の初版は1993年。これまでも平成初期の推理小説しか読んでこなかったからか、あまりのギャップに「時代錯誤!」と叫びそうになったが、時代錯誤甚だしいのは私の本棚の方である。

 

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