21時半。
夜道数メートル先、道路の真ん中に何か落ちている。大きさ的には子供の靴くらいで、轢かれたネズミの死体かもしれないとギョッとする。
なるべく鮮明に見たくは無いから、端へ迂回して歩く。直ぐそこまで来て横目で覗くと、ただ何かの布の袋であった。
ホッとするより、拍子抜けした感じである。自分が、布の袋では無く、ネズミの死体を期待していたことに気がつく。
ホラー映画で、いかにも怪しい場所に独りで入って行ってしまう主人公の心理は、こういうことかと納得する。
3月。穏やかな春。講堂前の廊下に、同級生達が2列に並んでいた。これから卒業式である。
遅れて来た私は、列に空いている自分の場所に加わる。隣の子に「変なこと任せちゃって、ごめんね」と謝ると、その子は「良いよ良いよ」とはにかんでいる。
この学年は、8割の子が大学か専門学校に進学し、他の2割が就職で、卒業後の進路で "生" を選択しなかったのは私1人だけで、教師陣は幾らか珍しがっていた。
卒業式が終わったら、この隣の子に拳銃で脳幹を撃ち抜いてもらう。
「卒業生、入場」の声と共に、講堂の扉が開く。新たな門出を祝う温かな拍手の中へ、歩き始めた。