深夜の散歩へ

深夜零時近くになって、急にアイスが食べたいと思った。既にどっぷり梅雨入りしたらしいが、偶然にも雨の降らない夜であった。鍵と財布だけを引っ提げて、夜の街へと繰り出した。 深夜の散歩は数ヶ月ぶりである。若干湿った風が静かに吹いている。前にも後ろ…

蓮池

芥川龍之介の「蜘蛛の糸」は、御釈迦様が蓮池のまわりをぶらぶら歩くシーンから始まる。学生時代に朗読の課題で何度も読まされたので、よく印象に残っている。 日本庭園の真ん中に、つるんと丸みを帯びた石が円形に並べられ、その中は冷たく澄んだ淡水がたっ…

アイドル、アリクイ、武道館を目指せ。

ミナミコアリクイである。体長1メートル弱、長い尻尾まで含めると1.5メートルはありそうである。全身をクリーム色のパサついた毛で覆い、背中から肩にかけては黒い毛が模様を作っており、伸び切ったタンクトップを着ているように見える。ずんぐりした体から…

「いちご味の頭突き」

彼女はクラスの中でも群を抜いた存在でした。初対面で必ず褒められる肌の白さ、洗練された喋り口調、細い指、しっとり湿り気を帯びた長い髪や、上品な目元まで、挙げればキリがないほど隅から隅まで綺麗で、まるで可憐な白猫でした。それで自分の美しさを威…

蟻は土を這ってくれ

本を読んでいると、左手の甲に、黒いゴミが付いていた。特別意識せずに払い落とそうとして、ギョッとした。蟻であった。5ミリ程度の小さな蟻が、真っ黒な体をテラテラ光らせて、手の甲を横断していた。 ゴキブリでも蜘蛛でも無く、蟻である。家の中で蟻を目…

富士山について

驚くなかれ、私は富士山をみたことがない。正確には、関東育ちだから視界の遠くに見切れることくらいはあっただろうが、「富士をみる」という行為を意識してやったことがない。富士の麓に旅行した記憶もなく、また日本一高い山について日常的に思い馳せる習…

ふ菓子の熱量

ふ菓子ばかり食べている。黒糖がまぶされた定番のやつである。大きい袋に、10センチ大に切られたふ菓子が20個ほど詰め込まれている。夕方のスーパーで買ってきて、おやつに食べて、「残りは明日食べよう」と冷蔵庫に入れ、しかし夕飯後、またモリモリ食べて…

コッパーウィーク

ゴールデンウィークである。9月にも連休がやってくるが、今年は3連休にしかならないため、シルバーウィークとは呼ばないらしい。「最長10連休」という前代未聞の日数を叩き出し、今年はゴールデンウィークの独壇場、文字通り「金」にふさわしい輝きである。 …

喉が渇いたらアイスを食べたい

既に真夏のような暑さである。慌ててクローゼットを衣替えしたり、夏服の下着が無いことに気付いて、買いに出掛けたりもした。室内だろうと少し動けば汗が滲み、外に出れば、ただ歩き回るだけで息が上がる。格好は素肌に半袖1枚のみ。帰り道では欲求に勝てず…

Wi-Fiに生活を握られている

夕方、YouTubeを観ようとスマホを点けたら、動画が全く読み込めない。黒い画面に「読み込み中」のマークがぐるぐる回っているばかりである。動画一覧も、全部のサムネイルが真っ白のまま。試しに他のアプリを開いてみれば、LINEもTwitterも読み込めない。設…

知り合い未満

恒例「街中の書店巡り」の最中、ある大型書店にて、1冊の文庫本を手に取り、熱心に吟味している女性がいた。私が一度通りかかって、奥の書棚をのんびり物色し、一周して帰って来ても、まだ吟味していた。相当好きな作家なのか、あるいは偶然見つけて惹かれた…

春暑し、カービィを追想する

丸1年ぶりに「暑さ」によって起こされた。スマホを点ければ午前6時。羽毛布団は蹴飛ばされて大胆に捲れているし、背中はじっとり汗ばんでいて、不快指数は初夏のそれと同じである。 4月は、こんなに暑かったか。捲れた布団はそのままにして、パジャマのボタ…

巨大無機生物

久しぶりに渋谷へ行ったら、PARCOがとんでもない大きさに進化していた。約10年前、ここにはPARCOパート3が建っていたはずであり、若者向けファッションブランドが詰め込まれているにも関わらず、いつ行っても閑散とした館内が印象的であった。もう随分昔の話…

文房具とたこ焼きを天秤にかける

セロハンテープが無くなったので、駅前まで買いに出掛けた。 昔は大きな文房具屋があり、近隣の学生は全員そこに通っていたのだが、随分前に潰れてしまって以降、この街には文房具専門店が無くなってしまった。残ったのは、書店やドラッグストアに設置された…

積もる保証のない雪

風が吹き、水が流れるのと同じように、雪とは積もるものである。天気予報で「明日にかけて雪でしょう」と言われれば、「明朝は一面雪景色です」という意味で、「雪でしょう」はイコール「積もるでしょうから、そのつもりで」という呼び掛けでもある。「雪が…

「進路選択」_4/4

←3ページへ戻る 穏やかな風が吹いている。 今年の桜は早く咲いて、流石に満開とまではいかなかったけど、グラウンドの桜の木はところどころ蕾が開いていて、みんなで写真を撮ってはしゃぎまわった。 私は3年生に上がる時、ずっと先延ばしにしていた進路選択…

「進路選択」_3/4

←2ページへ戻る 「雨木さん」 話すのは、あの日振りだ。革靴を履いて、脱いだ上履きを下駄箱に揃えて、雨木さんはこちらに向き直った。胸に下したツインテールが、風に吹かれて揺れていた。グラウンドからは、微かに野球部の掛け声が聴こえてくる。部活動に…

「進路選択」_2/4

←1ページへ戻る 大人しく『進学』を選べずにいるのは、単純に、やりたいことが分からないから。後々の就職を考えたら理系大学が良いんだろうけど、自分の成績では到底受かる気がしない。4年間毎日勉強したいと思える科目なんて無いし、つまらない授業のため…

「進路選択」_1/4

※全4ページあります *** 「じゃあ配るから、後ろに回して」 最前列の机にプリントの束が置かれていく。1枚取って後ろの席へ、1枚取ってまたその後ろへと回され、静かな教室には紙をめくるバサバサという音だけが響いていた。 先生は黒板に『9月10日〆』と…

エラ呼吸に想いを馳せる

今年が始まってまだ2ヶ月半にも関わらず、既に7回もマクドナルドへ行っていたことが分かり、驚愕した。毎度「しょっぱい物が食べたい」という発作的衝動に負け、気付けばマックのレジに並んでしまっている。 今日も今日とて、朝目覚めた瞬間から「マックの日…

シルバニア産の冷蔵庫を買った

書店を冷やかしに行こうと、ショッピングモールへやって来た。普段なら書店以外には見向きもせずに歩くのだが、ふと目をやった店先に、大量のシルバニアファミリーが並んでいて仰天した。 「あらあらあらあら」と店まで吸い寄せられる。先週までは只の手芸屋…

卒業式

花粉症である。いや、花粉症でした、と過去形で言えるはずだったのである。 2月が終わり、気温が上がり、ああもうすぐ春ですね、花粉ですねという恒例のやり取りが始まって、しかし私はクシャミも鼻水も全く出ていなかった。アレグラを飲みはじめた親を横目…

トイレを求めて彷徨う

両手をポケットに突っ込み、虚な目でフラフラしているのが常で、よく「何を考えているか分からない」と言われるのだが、大抵はただただ虚空を見つめているだけであって、全然何も考えていない。しかし、ここ数年は不健康極まりなく、頭痛・腹痛の毎日なので…

無地の新聞紙が溢れる街

6時間、紙を千切り続ける仕事をしてきた。 Amazon等で小さい商品を購入すると、そのままでは段ボール内で暴れてしまうから、「無地の新聞紙」をクシャクシャに丸めて同梱し、商品を固定してあったりする。あるいは、同人誌やグッズを発注すると、納品物の上…

夢現

龍角散を舐めている。CMでよく見る粉の方でなく「すっきり飴」の方である。先週、喉がいがらっぽいからと買ってきて、余った分を冷蔵庫に突っ込み、そのまま忘れてしまっていた。 一度に3個口に放り込み、カラコロやりながら袋の栄養成分表示を眺める。1袋全…

御守りと墓と仏壇と

歩道に、御守りの中身が落ちていた。 雲一つなくサッパリ晴れ上がった冬日和、ポイ捨てなどほとんど存在しない清潔な街の中心部に、明らかに異質な札(ふだ)が落ちていた。5.6センチ程度の、赤い布地のお札である。 幼少時代、手持ちの御守りを片っ端から開封…

コーンを鉛筆で刺して食べていた君へ

冬の自動販売機に「コーンポタージュ缶」と「おしるこ缶」が並ぶのは知っていたが、近年は味噌汁に始まり、出汁やおでん等々、興味深いタイトルが登場するようになって、冬の自販機はさらに魅力的な休憩スポットへと進化した。 これだけラインナップが充実し…

敗者

実は新年早々「転職活動」に手を染めていたのだが、先日、ようやく一次面接を突破した。ウェブメディアを運営する会社である。 ライターとして応募したから、二次審査ではテストライティングがあり、渡されたキーワードを元に自由に記事を書いて提出するのだ…

【供養】企業のテストライティングで選考落ちした記事

※WEBメディア運営企業の中途採用にエントリーした際、2次審査のテストライティングで提出し、(恐らく個人的な思想が強すぎて)落ちた記事です。 ※企業側から提示されたキーワードは「転職・面接・服装」。キーワードを元に自由に記事を書け、というもの。 ※…

「あたしンち」対ゾンビ

全くもって実用性のないネット記事を読み耽っていたら、「筆者は記事を書く時、いつも『あたしンち』を垂れ流しています」という一文があった。YouTubeでアニメ「あたしンち」が公開されているというのである。 「あたしンち」は不思議なもので、印象深いエ…

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