芥川龍之介の「蜘蛛の糸」は、御釈迦様が蓮池のまわりをぶらぶら歩くシーンから始まる。学生時代に朗読の課題で何度も読まされたので、よく印象に残っている。 日本庭園の真ん中に、つるんと丸みを帯びた石が円形に並べられ、その中は冷たく澄んだ淡水がたっ…
ミナミコアリクイである。体長1メートル弱、長い尻尾まで含めると1.5メートルはありそうである。全身をクリーム色のパサついた毛で覆い、背中から肩にかけては黒い毛が模様を作っており、伸び切ったタンクトップを着ているように見える。ずんぐりした体から…
彼女はクラスの中でも群を抜いた存在でした。初対面で必ず褒められる肌の白さ、洗練された喋り口調、細い指、しっとり湿り気を帯びた長い髪や、上品な目元まで、挙げればキリがないほど隅から隅まで綺麗で、まるで可憐な白猫でした。それで自分の美しさを威…
本を読んでいると、左手の甲に、黒いゴミが付いていた。特別意識せずに払い落とそうとして、ギョッとした。蟻であった。5ミリ程度の小さな蟻が、真っ黒な体をテラテラ光らせて、手の甲を横断していた。 ゴキブリでも蜘蛛でも無く、蟻である。家の中で蟻を目…
驚くなかれ、私は富士山をみたことがない。正確には、関東育ちだから視界の遠くに見切れることくらいはあっただろうが、「富士をみる」という行為を意識してやったことがない。富士の麓に旅行した記憶もなく、また日本一高い山について日常的に思い馳せる習…
ふ菓子ばかり食べている。黒糖がまぶされた定番のやつである。大きい袋に、10センチ大に切られたふ菓子が20個ほど詰め込まれている。夕方のスーパーで買ってきて、おやつに食べて、「残りは明日食べよう」と冷蔵庫に入れ、しかし夕飯後、またモリモリ食べて…
ゴールデンウィークである。9月にも連休がやってくるが、今年は3連休にしかならないため、シルバーウィークとは呼ばないらしい。「最長10連休」という前代未聞の日数を叩き出し、今年はゴールデンウィークの独壇場、文字通り「金」にふさわしい輝きである。 …
既に真夏のような暑さである。慌ててクローゼットを衣替えしたり、夏服の下着が無いことに気付いて、買いに出掛けたりもした。室内だろうと少し動けば汗が滲み、外に出れば、ただ歩き回るだけで息が上がる。格好は素肌に半袖1枚のみ。帰り道では欲求に勝てず…
夕方、YouTubeを観ようとスマホを点けたら、動画が全く読み込めない。黒い画面に「読み込み中」のマークがぐるぐる回っているばかりである。動画一覧も、全部のサムネイルが真っ白のまま。試しに他のアプリを開いてみれば、LINEもTwitterも読み込めない。設…
恒例「街中の書店巡り」の最中、ある大型書店にて、1冊の文庫本を手に取り、熱心に吟味している女性がいた。私が一度通りかかって、奥の書棚をのんびり物色し、一周して帰って来ても、まだ吟味していた。相当好きな作家なのか、あるいは偶然見つけて惹かれた…